「痛くない」と「治る」は違う
痛みがなくなったら、
もう治ったと思っていませんか?

●「以前、同じような痛みがあったときは、数日で引いてすぐに治ったのに、今回はなかなか良くならないのよね……」
●「今回の痛みも、前みたいにしばらくしたらなくなるだろうから、大丈夫だと思っているんです」
●「もう痛みがないんだから、治ったってことでしょう? また気にせず身体を使っても大丈夫よね」
皆さんも、一度はこんなふうに考えたことがありませんか?
痛みがなくなると、ほっとしますよね。
以前のように歩ける。家事ができる。趣味を楽しめる。
それは、とても嬉しいことです。
でも、ここで一つ知っておいていただきたいことがあります。
それは、
「痛みがなくなったこと」と
「これからも痛みを繰り返さないこと」は、必ずしも同じではないということ。
なぜでしょうか?
その理由を理解するために、まずは痛みと身体の回復について考えてみましょう。
① そもそも「痛み」とは?

私たちの身体には、傷ついた組織を「自分で」修復したり、
「自分で」炎症を落ち着かせたりする働きが備わっています。
いわゆる「自然治癒力」です。
例えば、転んで膝を擦りむいたとき。
最初は血が出て、ヒリヒリと痛みます。
しかし、時間がたつと傷口がふさがり、少しずつ痛みも落ち着いていきますよね。
これは、身体に備わった回復の仕組みが働いているからです。
では、腰痛や膝痛も同じなのでしょうか?
痛みには、さまざまな仕組みが関係しています。
例えば、
-
炎症:組織に炎症が起こり、痛みを感じやすくなる
-
組織への負担や損傷:筋肉や関節などに強い負担がかかる
-
神経の刺激や過敏化:神経系が刺激に敏感になり、痛みを感じやすくなる
-
血流の変化:一部の病態では、血流の不足などが痛みに関係する
などです。
ただし、痛みは単純に「身体が傷ついている量」を表すものではありません。
組織の状態だけでなく、神経系の働きや睡眠、ストレスなど、さまざまな要因の影響を受けます。
つまり痛みとは、
身体の状態を知るための大切な手がかりの一つなのです。
そして、身体の回復機能=自然治癒力が働いたり、
神経の興奮が落ち着いたりすることで、痛みが自然に軽くなることもあります。
ここに、今回のお話の重要なポイントがあります。
② 痛みが消えたら、もとの生活?

例えば、何度もぎっくり腰を繰り返している方を想像してみてください。
●普段から長時間座っている。
●同じ作業ばかりを続ける事が多い。
●重いものを持つときに、いつも無理な姿勢になっている。
こうした習慣が、腰への負担に関係している場合があります。
ある日、腰に強い痛みが出ました。
しかし、数日から数週間で痛みが落ち着き、普段どおりの生活ができるようになりました。
「よかった、治った!」
そう思うのは自然なことです。
実際に、身体の組織が回復し、痛みが改善したのかもしれません。
ところが、ここで以前と同じ生活に戻ったらどうでしょうか?
長時間座りっぱなし。
運動不足。
無理な姿勢での作業。
痛みが落ち着いても、
その痛みに関係していた負担が変わっていなければ、再び痛みが起こる可能性があります。
すると、次のようなことが繰り返される場合があります。
①身体に負担がかかる習慣や癖がある
↓
②腰や膝などに痛みが出る
↓
③身体の回復機能 自然治癒力 が働き、痛みが落ち着く
↓
④「もう治った!」と思う
↓
⑤以前と同じ習慣や癖を繰り返す
↓
⑥また痛みが出る
この繰り返しです。
もちろん、腰痛や膝痛の原因は生活習慣だけではありません。
また、再発したからといって、必ず以前より重症になるわけでもありません。
しかし、何度も痛みを繰り返すうちに、以前より症状が長引いたり、日常生活への影響が大きくなったりする方もいます。
「前は数日で治ったのに、今回はなかなか良くならない」
そんなときには、単に痛みが引くのを待つだけでなく、なぜ繰り返しているのかを考えることが大切です。
③ 痛くない と 治る は、何が違う?
ここで、2つの言葉を整理してみましょう。
「痛くない」とは、今、痛みを感じていない状態。
一方、当院が目指す「治る」とは、痛みが落ち着くだけでなく、痛みを繰り返すリスクを減らし、やりたいことを安心して続けられる状態に近づくことです。
例えば、腰痛がなくなったとしても、
●以前と同じ動作で腰に負担をかけ続けている。
●必要な筋力や体力が十分に戻っていない。
●痛みが怖くて、日常生活の活動を制限している。
そんな状態であれば、痛みがなくなっただけでは、まだ解決していない課題があるかもしれません。
反対に、痛みが落ち着いた後も、
●自分に合った運動を続けられている。
●身体に負担がかかりやすい動作を理解している。
●疲れたときや不調を感じたときに、適切に対応できる。
そうした状態に近づくことは、再発予防を考えるうえで大切です。
もちろん、どれだけ気をつけても、痛みの再発を完全に防ぐことはできません。
それでも、痛みが起こるたびに対処するだけでなく、繰り返しにくい状態を目指すことには意味があります。
「今、痛くないか」だけではなく、「これからも自分らしい生活を続けられるか」。
当院では、その両方を大切にしています。
④ 痛みを取るよりも、大切なこと

ここまで読んで、
「じゃあ、痛みを取ることは大切ではないの?」
と思われた方もいるかもしれません。
もちろん、そんなことはありません。
痛みが強ければ、眠れなくなったり、歩けなくなったり、日常生活に大きな支障が出たりします。
まず痛みを和らげることは、とても大切です。
ただ、私たちはそこで終わりにしたくないのです。
「なぜ、この痛みが起きたのだろう?」
「身体のどこに負担がかかっていたのだろう?」
「どんな習慣や動作を見直せば、再発のリスクを減らせるだろう?」
こうしたことまで考えていくことが、重要だと思っています。
例えば、腰痛を繰り返している方でも、見直すべきことは一人ひとり異なります。
運動不足が関係している方には、無理のない運動習慣が必要かもしれません。
筋力や身体の使い方に課題がある方には、その方に合ったトレーニングが役立つかもしれません。
仕事や家事の負担が大きい方には、作業の仕方や休憩の取り方を工夫することが必要かもしれません。
また、生活習慣だけでは説明できない痛みについては、医療機関での評価が必要な場合もあります。
大切なのは、誰にでも同じ方法を当てはめることではありません。
ご自身の身体を知り、痛みに関係している要因を一つずつ見直していくことです。
そして、その取り組みを続けることが、痛みを繰り返しにくい生活につながっていきます。
まとめ|痛みがなくなった、その先へ

人には、自分の身体を回復させる力が備わっています。
だからこそ、痛みが自然に落ち着くこともあります。
それは、身体にとって大切な働きです。
しかし、痛みがなくなったからといって、再発につながる要因まですべて解消されたとは限りません。
「痛みがなくなったから、もう大丈夫」ではなく、「なぜ痛みが起きたのか、これから何を変えればよいのか」。
そこまで考えることが、繰り返す痛みと向き合う第一歩になります。
当院が目指しているのは、その場の痛みを和らげることだけではありません。
痛みの背景にある身体の状態や生活習慣にも目を向け、患者様ご自身が身体を守る方法を身につけていただくことです。
「痛くない」で終わらず、「痛みを繰り返しにくい身体と生活」へ。
これからも、やりたいことを諦めずに過ごせるよう、一緒に考えていきたいと思っています。

