筋力と痛みの関係

 

「痛いから安静に・・」

それ、本当に身体のためになっていますか?

  • 「病院から退院したあと、家に帰ってから急に身体の痛みがひどくなった」

  • 「運動しなきゃとは思う。でも痛みがあるから動かしていいのか分からない」

  • 「昔はもっと動けていたのに、年々筋肉が衰えているのを感じる……」

  • 「痛いから安静にしていたら、ますます身体が動かなくなってきた」

こんなお悩みはありませんか?

痛みがあると、

「なるべく動かさない方がいいのでは?」

と思ってしまいます。

もちろん、骨折や大きなケガ、強い炎症など、安静が必要な時期もあります。

 

しかし慢性的な腰痛や膝痛などでは、動かない期間が長くなることで筋力が低下し、それが身体の負担をさらに大きくしてしまうことがあります。

今回は、

「筋力と痛みには、どんな関係があるのか?」

について解説します。


 そもそも筋肉は何のためにある?

筋肉というと、

「力を出すためのもの」

というイメージが強いかもしれません。

もちろん、それも大切な役割です。

しかし筋肉には、それ以外にも、

  • 身体を動かす

  • 姿勢を維持する

  • 関節を安定させる

  • 衝撃を吸収する

  • 身体を支える

  • 歩く・立つ・階段を上るなどの日常動作を行う

といった重要な役割があります。

例えば、膝。

歩くたびに膝関節には負荷がかかります。

そのとき、骨だけで身体を支えているわけではありません。

太ももやお尻など、周囲の筋肉が働くことで身体を支え、動きをコントロールしています。

腰も同じです。

お腹、お尻、背中、股関節周囲など、さまざまな筋肉が協力することで身体を支えています。

つまり筋肉は、

「関節を動かすもの」であると同時に、

「関節を守るもの」でもある

のです。


 筋力低下で身体に何が起こる?

 

1.他の筋肉が頑張りすぎる

身体は非常によくできています。

ある筋肉が十分に働けなくても、

「今日はこの筋肉が弱いから歩くのをやめよう」

とはなりません。

別の筋肉を使って、なんとか同じ動作をしようとします。

例えば、本来お尻の筋肉が担うべき仕事を十分にできなくなれば、太ももや腰などが代わりに頑張ることがあります。

一時的にはそれでも動けます。

しかし、その状態が毎日続いたらどうでしょう。

代わりに頑張っている筋肉には、少しずつ負担が蓄積していきます。

その結果、

「弱くなった筋肉そのもの」ではなく、「代わりに頑張り続けている筋肉」が痛くなる

こともあります。


2.関節を安定させにくくなる

筋肉には、関節の動きをコントロールする役割があります。

そのため筋力や筋機能が低下すると、

身体を支えたり、関節を適切にコントロールしたりする能力も低下します。

すると、

  • 立ち上がる

  • 階段を上る

  • 歩く

  • 片足で身体を支える

といった日常動作でも、特定の関節や筋肉に負担が集中しやすくなることがあります。

「関節がゆがむ」というより、

「関節を適切な位置や軌道でコントロールする能力が低下する」

と考えると分かりやすいでしょう。


3.身体の使い方が変わる

筋力が低下すると、

身体は「できる方法」で動こうとします。

例えば、

脚の筋力が落ちて立ち上がりにくくなると、

勢いをつけたり、

腕で身体を押したり、

必要以上に身体を前へ倒したりして立ち上がるようになります。

これを繰り返していると、

本来とは違う身体の使い方が習慣になる

ことがあります。

すると、一部の筋肉や関節に負担が集中するようになります。


4.「痛い→動かない→さらに弱る」という悪循環になる

慢性的な痛みで特に注意したいのが、この悪循環です。

痛い

動かない

筋力・身体機能が低下する

以前より動くことが大変になる

さらに活動量が減る

という流れです。

実際、長期間身体を動かさないことで、筋力は想像以上に早く低下します。

ベッド上安静に関する研究をまとめたシステマティックレビューでは、足の筋力は計算上、

5日間で約3.6%低下
10日間で約9.9%低下
35日間で約21.2%低下

すると推定されています。

さらに、筋力低下は筋肉そのものが小さくなるスピードよりも早く起こることが報告されています。

つまり、

見た目ではそれほど筋肉が落ちていなくても、

「力を出す能力」は先に低下している可能性がある

ということです。

入院後に、

「病気そのものは良くなったのに、家に帰ってから身体がしんどい」

「以前より歩くのが大変になった」

と感じる背景には、入院中の活動量低下が関係しているケースもあります。


「筋肉をつければ痛みは治る」の?

ここは非常に大切です。

筋力をつければ、すべての痛みが治るわけではありません。

痛みには、

  • 骨や関節の問題

  • 神経

  • 炎症

  • 筋肉

  • 身体の使い方

  • 睡眠

  • 心理・社会的要因

など、さまざまな要素が関係します。

だから、

「腰が痛い=腹筋がないから」

「膝が痛い=太ももの筋肉がないから」

と単純に考えることはできません。

一方で、

運動療法は慢性腰痛に対して世界的にも推奨されている治療法の一つです。

WHO(世界保健機関)も慢性腰痛に対する非手術的治療として、

教育や運動プログラムなどを推奨しています。

また、慢性非特異的腰痛に対する筋力トレーニングを検討した研究でも、痛みや身体機能の改善が報告されています。

つまり、

筋力は「痛みを考えるうえで重要な要素の一つ」

なのです。


90代でも筋力は取り戻せる

「もう70歳だから。」

「80歳を過ぎたら筋肉なんて増えないでしょう?」

そう思われている方に、ぜひ知っていただきたい研究があります。

1990年、医学雑誌『JAMA』に非常に興味深い研究が発表されました。

対象となったのは、

平均年齢90歳の高齢者10名。

なんと最高齢は96歳でした。

この方々に、8週間の筋力トレーニングを行ってもらいました。

その結果、

筋力 平均174%増加

太ももの筋肉の面積 平均9%増加

歩行能力 平均48%改善

という結果が報告されました。

わずか8週間で、です。

もちろん、この研究は10名という小規模な研究です。

また、すべての90代の方が同じ結果になるわけではありません。

しかし、この研究から分かる大切なことがあります。

それは、

「高齢だから筋力はもう変わらない」とは言えない

ということです。

90代であっても、適切な負荷をかければ身体は反応する可能性があります。


ただし「とにかく筋トレ」ではありません

 

ここで、

「じゃあ今日からスクワット100回!」

となる必要はありません。

むしろ注意が必要です。

筋力が低下している人ほど、

今の身体に合わない負荷をかければ痛みを悪化させる可能性があります。

大切なのは、

今の身体がどの程度の運動に耐えられるのかを確認しながら、少しずつ負荷を上げていくこと。

そしてもう一つ重要なのが、

「どの筋肉を鍛える必要があるのか」

です。

身体の使い方に癖がある状態で、ただ負荷だけを強くすると、普段から使い過ぎている筋肉をさらに鍛えてしまうこともあります。

だからこそ、

「運動するか・しないか」

だけではなく、

何を、どのくらい、どのように行うのか

まで考えることが大切です。


当院が考える筋力と痛み

 

当院では、

「痛いから筋肉をつけましょう」

と一括りには考えません。

まず、

  • どの筋肉が弱くなっているのか

  • 反対にどこが頑張りすぎているのか

  • どんな動作で痛みが出るのか

  • どんな身体の使い方をしているのか

  • 入院や安静によって活動量が低下していないか

  • 普段どのくらい身体を動かしているのか

などを確認します。

そして、

身体の状態に合わせて、

「使えていない筋肉をもう一度使える身体にしていく」

ことを大切にしています。

施術だけで身体を整える。

筋トレだけをする。

どちらか一方ではなく、

身体を整えながら、必要な筋肉を少しずつ取り戻していく。

それが、痛みを繰り返さない身体づくりにつながると考えています。


まとめ

筋肉は、

単に力を出すだけのものではありません。

身体を支え、

関節を安定させ、

毎日の動きをコントロールしてくれる大切な存在です。

そして、

使わなければ、筋力は想像以上に早く低下します。

一方で、

90代になっても、筋力が向上する可能性はあります。

「もう歳だから。」

「痛いから動かさない方がいい。」

と諦めてしまう前に、

今の身体には何が必要なのか、一度確認してみてください。

大切なのは、

無理をして運動することではありません。

今の身体に必要な運動を、適切な方法・適切な負荷で行うこと。

身体は、正しく使えば何歳からでも変わる可能性があります。


参考文献・情報の出典

  1. Fiatarone MA, et al.
    High-Intensity Strength Training in Nonagenarians: Effects on Skeletal Muscle. JAMA. 1990;263(22):3029-3034.
    平均90歳の高齢者を対象に8週間の高強度筋力トレーニングを実施。筋力174%増加、大腿部筋断面積9%増加、歩行能力48%改善が報告された。

  2. Rudrappa SS, et al.
    Nonuniform loss of muscle strength and atrophy during bed rest: a systematic review. Journal of Applied Physiology. 2021.
    ベッド上安静による筋力・筋肉量の変化を検討したシステマティックレビュー。筋力低下は安静の早期から生じ、5日で約3.6%、10日で約9.9%、35日で約21.2%の低下が推定された。

  3. Van Ancum JM, et al.
    Change in muscle strength and muscle mass in older hospitalized patients: A systematic review and meta-analysis. Experimental Gerontology. 2017;92:34-41.
    高齢入院患者では、疾患そのものだけでなく、身体活動量の低下や栄養状態などによって筋力・筋肉量が低下する可能性を報告。

  4. World Health Organization(WHO)
    WHO guideline for non-surgical management of chronic primary low back pain in adults in primary and community care settings. 2023.
    慢性腰痛に対する非手術的治療として、患者教育や運動プログラムなどを推奨。

  5. Rodríguez-Domínguez AJ, et al.
    Does resistance training improve pain intensity, quality of life, and disability in people with chronic nonspecific low back pain? A systematic review and meta-analysis. Disability and Rehabilitation. 2026;48(6):1532-1545.
    10件のランダム化比較試験、計434人を解析し、筋力トレーニングによる慢性非特異的腰痛の痛み・身体機能などの改善を報告。