「正しい歩き方」より大切なこと

「ちゃんと歩かなきゃ」と思いすぎて、

 歩けなくなっていませんか?

  • 「テレビで紹介されていた『悪い歩き方』。全部私に当てはまっていた……」

  • 「歩いているうちに背中が曲がってくる。こんな姿勢で歩いても逆効果じゃない?」

  • 「歩くなら、大股で歩いた方が効果があるの?」

  • 「平坦な道より、階段や上り坂を歩いた方が身体にはいい?」

患者さんから、こんな質問をよくいただきます。

健康のために歩いた方がいい。

それは分かっている。

でも、いざ歩こうとすると、

「姿勢を良くしないと」

「腕を大きく振らないと」

「大股で歩かないと」

「最低30分くらい歩かないと意味がない」

と、どんどん条件が増えてしまう。

 

そして最終的には、

「今日は時間がないから、また今度にしよう」

となってしまう方も少なくありません。

 

そこで今回は、

「正しい歩き方」より先に知っていただきたいことをお伝えしつつ、

普段、患者さんからよくいただく疑問にお答えいたします。


「どう歩くか」よりまず「歩く」

 

もちろん、

姿勢や歩幅、歩く速度なども大切です。

痛みや病気によっては、歩き方を専門家に確認してもらった方がよい場合もあります。

 

しかし、健康づくりとしてウォーキングを始めるのであれば、

最初から100点の歩き方を目指す必要はありません。

まず大切にしてほしいのは、

歩く習慣をつくること。

 

そして、今の身体に無理のない範囲で、

少しずつ歩く時間や距離を増やしていくこと。

です。

 

WHO(世界保健機関)も、

「少しでも身体活動をすることは、何もしないより良い」

としています。

つまり、

「30分歩けないから今日は0分」

より、

「5分だけでも歩こう」

の方が身体にとってはプラスなのです。


歩くと身体に何がいいの?

歩くことは、

単に「脚の筋肉をつける運動」ではありません。

 

定期的なお散歩は、

  • 心肺機能の維持・向上

  • 心血管疾患の予防

  • 2型糖尿病の予防・管理

  • 筋力や身体機能の維持

  • 気分やメンタルヘルスへの良い影響

  • 認知症予防

など、さまざまな健康効果があります。

WHOは成人・高齢者に対して、

週2.5~5時間の中強度の有酸素運動を一つの目安として推奨しています。

ウォーキングは、その有酸素運動を日常生活に取り入れる代表的な方法の一つです。


「毎日30分歩かないと意味がない」は間違い

 

「ウォーキングするなら30分以上」

と思っていませんか?

現在の身体活動ガイドラインでは、

短い時間の身体活動も積み重ねてよい

という考え方になっています。

 

以前は、

「10分以上続けて運動しましょう」

という考え方がありました。

しかし現在では、短時間の身体活動も身体活動量として意味があるとされています。

 

ですから、

朝5分。

昼に5分。

夕方に5分。

でも構いません。

「まとまった時間がないから今日は歩けない」

ではなく、

生活の中に少しずつ歩く時間をつくる。

これも立派な運動です。


外に出なくてもいい。まず家の中で。

患者さんに、

「毎日歩いてくださいね」

とお伝えすると、

「先生、そんなに毎日散歩する時間ないよ」

と言われることがあります。

でも、

必ずしも、

ウェアに着替えて、靴を履いて、公園まで行って、

30分散歩する必要はありません。

 

雨の日なら、

家の廊下を往復する。

リビングをぐるぐる歩く。

買い物へ行ったときに、少し多めに歩く。

それでもいいのです。

 

WHOも、

移動、仕事、家事などを含め、

日常生活の中で身体を動かすことも身体活動に含まれるとしています。

まずは、

「5分ならできそう」

というところから始めてみてください。

0分と5分は、

たった5分の違いに見えます。

でも、

「やらなかった」と「今日も歩いた」には、大きな違いがあります。


いきなり頑張りすぎない

ここも非常に重要です。

例えば、

今までほとんど歩いていなかった方が、

「健康のために今日から頑張るぞ!」

と突然30分、1時間歩いたとします。

身体にとっては、

昨日までなかった負荷が突然加わることになります。

実際、身体活動に伴う筋肉・骨・関節などのケガのリスクは、

普段の活動量と新しく始める活動量との差が

大きいほど高くなることが、

米国の身体活動ガイドラインでも指摘されています。

だから、

昨日5分だった人が、今日いきなり30分にする必要はありません。

身体にも、

新しい運動に慣れるための時間を与えてあげましょう。


当院では「2週間ごとに5分」を一つの目安に

例えば、

最初は5分。

それを無理なく続けられるようになったら、

2週間後からは毎日10分。

さらに身体が慣れてきたら、

そのまた2週間後からは毎日15分。

というように、

少しずつ時間を増やしていきます。

 

当院では一つの分かりやすい目安として、

2週間程度続けられたら、5分増やしてみる

という方法をご提案することがあります。

5分

10分

15分

20分……

と、ゆっくり増やしていくイメージです。

もちろん、

「必ず2週間ごとに5分増やせばいい」

という医学的な決まりがあるわけではありません。

年齢や体力、症状によって調整します。

大切なのは、

身体が慣れる前に、一気に負荷を増やさないこと。

WHOも、運動習慣のない高齢者などについては、少量から始めて、頻度・強度・時間を徐々に増やすことを勧めています。


大股で歩いた方がいい?

これもよく聞かれる質問です。

「歩幅を大きくした方が筋肉を使うからいいですよね?」

確かに、歩幅や速度を変えれば身体にかかる負荷も変わります。

しかし、

「大股=全員にとって正しい歩き方」ではありません。

股関節や膝、腰などに痛みがある方が、

「大股で歩かなきゃ」

と無理に歩幅を広げることで、かえって身体への負担が増える場合もあります。

まずは、

無理なく歩ける自然な歩幅で構いません。

身体が慣れてきて、

「もう少し運動強度を上げたい」

となった段階で、歩く速度などを調整していけばよいのです。


階段や上り坂を歩いた方が効果的?

階段や上り坂では、

平地より大きな負荷がかかります。

だから、

「どうせ歩くなら坂道の方が効率がいい」

と思われるかもしれません。

 

しかし、

負荷が高い=今のあなたにとって良い

とは限りません。

 

普段ほとんど歩いていない方。

膝や腰に痛みがある方。

体力がかなり落ちている方。

こうした方は、

まず平坦な場所を無理なく歩ける身体をつくる。

その後、

身体の状態に合わせて坂道や階段などを取り入れていく。

という順番でも十分です。


背中が曲がってきても歩いていい?

 

「最初は真っすぐ歩けるけど、途中から背中が曲がってくる」

という方もいらっしゃいます。

この場合、

「姿勢が悪いから絶対歩いてはいけない」

とは限りません。

しかし、

歩いているうちに、

  • 痛みがどんどん強くなる

  • 脚のしびれが強くなる

  • 脚に力が入りにくくなる

  • 休まないと歩けない状態が急に悪化した

といった症状がある場合には、

単なる「歩き方の癖」と決めつけず、医療機関などで原因を確認することが大切です。

歩く量を増やす前に、

「なぜ姿勢が崩れてくるのか」

を確認した方がいい場合もあります。


完璧なウォーキングより、続けられるウォーキング

健康のために歩こうと思ったとき、

100点を目指さなくても大丈夫です。

「背筋を伸ばして」

「腕を大きく振って」

「大股で」

「30分以上」

「できれば坂道も」

こんなに条件が増えたら、

歩くこと自体が大仕事になってしまいます。

それよりも、

今日5分歩く。

そして、

明日も5分歩く。

身体が慣れてきたら、

少しだけ増やす。

この繰り返しです。

「正しい歩き方」を追い求めて歩かなくなるより、

今の身体にできる歩き方で、無理なく身体を動かす習慣をつくる。

その方が、長い目で見た健康づくりには大切です。


まとめ

ウォーキングで大切なのは、

最初から完璧なフォームで歩くことではありません。

まず、

身体を動かす習慣をつくること。

外へ行けなければ、

家の廊下でも構いません。

30分できなければ、

5分でも構いません。

昨日までほとんど歩いていなかったなら、

いきなり1時間歩く必要もありません。

少し歩く。

身体を慣らす。

そして、

少しずつ増やしていく。

「完璧に歩く」より「今日も歩く」。

まずはそこから始めてみてください。


参考文献・情報の出典

  1. World Health Organization(WHO)
    WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary Behaviour. 2020.
    成人・高齢者の身体活動について、「何もしないより少しでも身体活動を行う方がよい」とし、運動習慣のない人では少量から始め、頻度・強度・時間を徐々に増やすことを推奨。

  2. World Health Organization(WHO)
    Physical activity – Fact sheet.
    成人では週150~300分の中強度身体活動などを推奨。歩行を含め、移動、仕事、家事などさまざまな身体活動が健康に寄与するとしている。

  3. U.S. Department of Health and Human Services.
    Physical Activity Guidelines for Americans, 2nd edition. 2018.
    従来の「10分以上継続する」という条件を撤廃し、短時間の身体活動でも、積み重ねた身体活動量に応じた健康効果が期待できるとしている。また、普段の活動量と新しく行う活動量との差が大きくなりすぎないよう、段階的に増やすことを推奨。

  4. Centers for Disease Control and Prevention(CDC)
    Adult Activity: An Overview.
    成人では週150分程度の中強度身体活動を目安としながら、短い時間に分けて実施することも可能としている。